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【書評】戦争における「人殺し」の心理学ー教養としての必読書ー

軍事本の中でどれか一冊を、ということであればまず本書をオススメします。いや、むしろ大人の教養として最低限読んでおくべき本です。

タイトルはギョとしますが、内容は極めて示唆に富んでいます。流石はちくま学芸文庫と言ったところです。

文庫で500ページのボリュームですので、ここでは兵士がトラウマを抱えてしまう過程に焦点を絞って紹介します。

人は人を殺したくない

本書の要点を示す一文を引用します。

平均的かつ健全な・・・・・者でも、同胞たる人間を殺すことに対して、ふだんは気づかないながら内面にはやはり抵抗感を抱えているのである。その抵抗感ゆえに、義務を免れる道さえあれば、なんとか敵の生命を奪うのを避けようとする。・・・・・いざという瞬間に、[兵士]は良心的兵役拒否者となるのである。

そうです、人は人を殺したくないのです。

映画は非現実的

戦争映画を見ていると、人に向かって平然と銃を向けていたり、銃剣で人を刺すシーンが出て来ます(無我夢中でも人は「刺す」のではなく、銃槍で「殴る」ことを選択する)。

しかし、この本を読むとこれが「嘘」であることが良く分かります。

人は隙あらば、兵士の頭上に向かって発砲したり、或いは危険な伝令を引き受けるなど、何とか理由を見つけて人を殺さないよう行動するのです。

兵士はなぜトラウマを抱えるのか

メディアでは、帰還兵がPTSDに罹る様子が映し出されます。

アメリカのベトナム帰還兵がその代表例ですよね。

多くの人は、その兵士が戦場でよほど酷い目(敵から銃撃を受けるなど)に遭うことでPTSDに罹ると思っていますが、そうではありません。

むしろ、敵や民間人などを死傷させてしまったことにトラウマを抱えるのです。

私はぎょっとして凍りついた。相手はほんの子供だったんだ。たぶん12から14ってとこだろう。ふり向いて私に気づくと、だしぬけに全身を反転させてオートマティック銃を向けてきた。私は引き金を引いた。20発全部たたき込んだ。子供はそのまま倒れ、私は銃を取り落とし声をあげて泣いた。

ベトナムに従軍したアメリカ特殊部隊将校

また、第二次世界大戦時バストーニュで第101空挺部隊の軍曹として戦った老兵は、筆者とのインタビューで次のように述べています。

自分の経験、殺された戦友についてよどみなく話してくれたが、私が彼自身の殺人体験について質問すると、戦場ではだれが殺したのかはっきりわかるものではないという。

そのうち、ポールの目に涙が浮かんできた。長い沈黙があって、彼はようやく言った。「でも、一度だけ・・・・・」そこで、老紳士はすすり泣きに声を詰まらせた。顔は苦しげにゆがんでいる。

「いまも苦しんでおられるんですか。こんなに年月が経ったのに」私は驚いて尋ねた。「そう。こんなに年月が経ったのにね」それきり、この話にはふれようとしなかった。

殺された兵士は痛みもそれきりですが、殺した方はそうはいかないのです。

殺した側の人間は、死ぬまで手にかけた相手の記憶を抱えて生き、そして死んでいくのです。

訓練すれば「簡単」に殺せるようになる

第二次世界大戦時の兵士の発砲率はわずか15~20%ほど。それ以前の戦争ともなると、呆れるぐらいにその率は低かったようです。

ところが・・・

これを問題視したアメリカ軍を含む各国軍隊では、訓練を「改善」することによって、発砲率を劇的に向上させることに成功します。

具体的には、朝鮮戦争時は兵士の55%が発砲するようになり、ベトナム戦争に至っては90~95%の兵士が発砲するまでに改善されたのです。

それでは、どのように訓練を「改善」したのでしょうか?

それは次の3つを実施することによって、成し得ています。

脱感作

ランニングをしながら「殺せ、殺せ、殺せ、殺せ」と唱える。或いは、敵をディンク(ベトナム人)、コミー(共産党員)、などと侮蔑し、敵は狩りや殺しの対象としてよい別種の動物だと暗黙に認識させる。

つまり、基礎訓練キャンプで「殺人を神聖視」させるのです。

フルメタル・ジャケットという映画において、訓練時に敵を徹底的に罵倒するシーンには深い意味があることが分かります

条件付け

いわゆるパブロフの犬です。

射撃訓練の際に、風船に戦闘服を着せるなどして人間によく似た的を使ったり、或いは標的に銃弾が当たると、中からケチャップが出てくるなど、実際の戦場においても、躊躇することなく相手に対して発砲できるよう、何度も同じ訓練を施します。

否認防衛機制

聞き慣れない言葉ですが、先に挙げた脱感作と条件付けが組み合わさると、次のような思考(否認防衛機制)が出来るようになります。

基本的に、兵士は殺人のプロセスをなんども繰り返し練習している。そのため、戦闘で人を殺しても、自分が実際に人を殺しているという事実をある程度まで否認できるのだ。

つまり、殺人行為の慎重なリハーサルとリアルな再現のおかげで、たんにいつもの標的を「とらえた」だけと思い込むことができるのである。

訓練の副作用

この改善(洗練)された訓練は発砲率の向上とともに、副作用をもたらしました。

それは、対人的殺人を経験していなくても、胸の内ではいつでも発砲出来ると分かっていた。つまり、発砲出来るという事実(「頭の中ではすでに殺していた」)によって逃げ道が塞がれてしまい、戦争から持ち帰った自責という重荷から逃れなくなってしまったのです。

そう、実際に人を殺していないにも関わらず殺人の罪悪感を共有してしまうことになったのです。

生まれついての兵士が2%存在する

本論からは外れますが、人を殺しても一切良心の呵責がない、いわば「生まれついての兵士」が2%程度存在します。

これはサイコパスというわけではなく、戦場ではとても頼りになる仲間として重宝されます。

これをして筆者は生まれついての兵士を牧羊犬と表現しています。

余談ですが、アメリカンスナイパーという映画に登場するセリフは、本書にヒントを得たのではないかと推測します。

そして生まれつき攻撃の才能に恵まれていて、群れを守るものすごい強い必要性に駆られる人もいる。彼らはとても稀なタイプで、狼と戦うために生きるんだ。彼らが牧羊犬だ。この家族では羊は育てないからな。

And then there are those blessed with the gift of aggression, an overpowering need to protect the flock. These men are the rare breed who live to confront the wolf. They are the sheepdog. We do not raise sheep in this family.

出典映画で英語ドットコム

まとめ

投資に必要なのは教養。「約定」を「やくてい」と読んでしまうような、そんな教養の無い人間になってはダメなのです。

本書は、ミリタリー好きではなくとも、興味深く読めると思いますよ。

Go For Broke!

本書を読むと、次の2作の理解がより深まります。
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